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劇場版『この世界の片隅に』とその他もろもろ

 映画『この世界の片隅に』見てまいりました。
 よかった。
 よかったという言葉を単純に使ってよいのかと考えさせられてしまうほどに、もとの漫画は様々な問題提起をはらんでいるのですが、それでもやはり一個の完成した作品として鑑賞した際、その出来栄えを評価しようとすれば、おこがましくも「よかった」というのが最も感情を適確に表しているように思えます。

 物語は昭和十九年初旬、十八歳で広島の呉市に嫁入りしてきた主人公すずが見て、味わった、戦争末期の情景が描かれていきます。
 ストーリーについては、私からはなにも申し上げるべきことはありません。
 原作未読の方には、戦争というなかの日常、日常のなかに戦争のあった時代を、その苛烈さに加えてのどかさを存分にまみえて体験させてくれる稀有な作品だとお勧めいたします。
 そして、原作既読の方、ご安心ください。元のままです。あの『この世界の片隅に』が、そのままアニメーション作品となって仕上げられています。
 そのままどころではありません。広島と呉の街が、色づいて動く形となって造り上げられ、ある部分では原作を越える奥行きを提示してくれます。
 未読も既読も関係なく、是非とも一度ご覧いただきたい、そんな映像作品です。
 そして、見終われば、必ず漫画の『この世界の片隅に』を読みたくなってきます。

 さて、ここからは少々の蛇足を。
『この世界の片隅に』は漫画も映画も、どちらも作品世界が完成しているので、そのまま見てももちろん没入できるのですが、時代の息吹と、そして物語の集約する昭和二十年八月という時期を知っておくのに、役立つと思う資料を二冊ほど紹介したいと思います。
 興味を抱かれた方は、こちらも是非。

 まずはこのブログでも何度も取り上げております、山田風太郎の『戦中派不戦日記』を。
『魔界転生』や『甲賀忍法帖』の作者として、昭和三十年代から四十年代にかけての忍法ブームの火付け役となった作者の、昭和二十年元日から大晦日にかけての日記を単行本化したものです。
 戦中の日記は、このほかにも数多く出版されております。けれども、そのなかから、どうして風太郎のものを選んだのかといいますと、当時の彼が、最も『この世界の片隅に』の主人公すずに年齢的に近い境遇にあったからです。
 昭和二十年当時風太郎は若干二十三歳、医学生として学籍を持ち、職業作家となる以前の一般人でした。
 ですから得られる情報も新聞やラジオしかなく、それを信じて日々を生きていたという点で等しいのです。これが職業作家の日記となってきますと、方々で伝手があったためか、色々と政治状況や戦況が洩れ入ってきて、一般人の目からの戦争という観点からは距離があるように感じられます。
 また、生来のものなのでしょうが、風太郎がかなりの記録魔で当時の多くの情報を現在にまで伝えてくれています。警戒警報や空襲警報の発令解除の時間や回数を記録してくれており、その目まぐるしい環境を文字の上で知ることができます。

 そしてもう一冊はやはり山田風太郎による『同日同刻 太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日』です。
 これはサブタイトルの示す通り太平洋戦争の象徴的なふたつの日付けについて、多くの文献資料を引用して、当時起こったことを再現しようとしたノンフィクション作品となります。
 今回対象となるのは、昭和二十年八月一日から十五日にいたるまでの十五日間で、風太郎は洋の東西を問わず収集した文献を引用することで、日本人だけでなく連合国側からの視点も再現しようと試みます。
 圧巻はやはり八月六日から一五日にかけての十日間でしょう。
 映画『この世界の片隅に』の後半で描かれた状況は、また別の場所・国ではどういうことが起こり、どう考えられていたかがうかがえます。
 作品として成立して既に四十年近い時日の経過している書籍だけに、その後の新発見・再検討については当然カバーできておりませんので、ある程度はそのあたり割り引いて読まなければならない部分もありますが、それでもこの膨大な声の集積は、当時を感じるのに大きな意義があると思います。
 また『この世界の片隅に』の末節近く、すずが感情を爆発させる場面が少々唐突に感じられた方にも、この書の同日の記録を読んでもらえればと思います。決してあの部分は作者の創作ではなく、同じような感情の吐露が起こっていたのです。


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