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桂歌丸師匠の噺を二席

 Twitterをやっておりまして、何気なくつぶやいたことが、思いもよらず反応をいただき驚くことがあります。
 今日も昼ごろに他の方が桂歌丸師匠の話をされていたので、なんとなく師匠の噺はゆったりと鷹揚なものが聞いていて心地よくて好きだというようなことをいいますと、それがいくらか注目を集めておりました。
 最初は意外に思ってはいたものの、しばらく考えてなるほどと合点がいきました。
 桂歌丸といいますと、笑点のある種顔のような方ではあり、興味関心を引くことが多いのは自明です。そのうえで、今のように落語が決してポピュラーな演芸ではない時代では、興味があるもののなにから手をつけていいか見当がつかないということになるのでしょう。
 そこでみなさんの好奇心の触手に私のような場末のつぶやきも引っかかった、といういきさつだと考えると納得もいきます。
 そこで乏しい知識ではありますが、個人的な愛聴盤を紹介いたしまして、本日の話題に替えさせていただきたいと思います。

 桂歌丸師匠の録音は主にテイチクとソニーから出ておりますが、テイチクの方は『真景累ヶ淵』と『牡丹燈籠』という怪談のCD何枚組にもなる大ネタで、聴く側もかなり腰を据える必要があります。
 ソニーのから出ているのは東京の有楽町朝日ホールにて毎月1回行われている「朝日名人会」の音源を商品化したもので、桂歌丸をはじめとした当代の名人上手が名をつらねております。
 そのうちTwitterでも書いた『左甚五郎 竹の水仙』がまずは筆頭に挙げたい噺になります。
U_02_FC.jpg 日光東照宮の眠り猫でおなじみの名工左甚五郎を主役にあてた一席で、旅の途上で路銀を使い果たした甚五郎がさんざん飲み食いをした宿屋に自慢の腕を振るって代金と替えるという、あらすじだけ取り出しますと「抜け雀」に近い構成の、かといって衝立から絵に描いた雀が跳び出すという派手がましい趣向もなくどちらかといえば抑えめな噺となっています。
 ところがこれが桂歌丸という演者の手にかかると無性におもしろくなるのですね。
 まずは登場人物の作りがいい。左甚五郎こそ天才肌の職人にありがちな俗世間と無縁なステレオタイプで語っていますが、その相手をする宿の亭主が、いかにもうだつのあがらない人のよさそうな、けれども決して馬鹿正直という風でもない、いかにもどこかにいそうな男に仕立てており、口吻を聞いていて首をかしげるということがありません。
 私は特にこの亭主の、左甚五郎が無一文と知ってから「おい、一文無し」と呼びかけるいい方が好きなのですね。決して居丈高にならず、腹立ちはもちろんあるのですが、相手への親愛もどこかにおわせる口振りで、強い言葉がそう聞こえないところに芸の奥深さを覚えます。
 そしてそういう人のいい亭主とくれば、気の強い女将さんというのは定番ではありますが、ここでも決して高圧的にわめきたてるヒステリーとはせず、直接そういうセリフも描写もありませんが無一文の客をどこか気の毒に思っているような雰囲気をにおわせていていやみがありません。
 さらに結末近くで登場する、甚五郎の細工物を購入しにくる侍が、いかにも奉公以外になにも知らないくそ真面目な堅物で、やはり士農工商という時代にあって権威をかさに着るのではなく性分としての真面目さ故にずれた行動をしてしまうのがわかり、やはりいやな気分にならずにその言動を聴いていられます。
 これらのひとびとのやりとりが、聴いておりまして楽しいのですね。爆笑につぐ爆笑というのではなく、疲れることなく心地よくずっと聴いていられる。
 起伏の大きくない噺ですが、それがかえってじっくりと登場人物同士の掛け合いに耳を澄まさせて、終わった頃には落語というものを堪能した気分にさせてくれる肩は凝らないのにボリュームのある一席です。

 続いては『「火焔太鼓」「紙入れ」』の2席入ったアルバムの「紙入れ」を。
 いわゆる間男ものと呼ばれる、亭主のある奥さんのもとに別の男が入り込んで……という筋の噺のひとつです。
U_08_FC.jpg 普段から懇意にしてもらっている親方のお内儀から熱い懸想を受けて、とにもかくにもひと晩の相手に出かけたものの、途中で当の親方が帰ってきたために泡を食って逃げ出したところが大事な紙入れを忘れてしまう。おまけにその中には奥さんからもらった手紙が入っている。困りに困って、とにかく腹をくくり、親方の様子をうかがうために翌日家をたずねてみると……
 こちらも生来の悪人がだれも出てこず、どの登場人物もどこか抜けているところのうかがえるおおらかな噺です。
 生家が妓楼であった桂歌丸の口演では、露骨な表現はほとんどないにもかかわらず、前半に漂う艶は他の追随を許さぬものがあり、そこから一転親方の帰ってからのどたばた、さらに後半の間男と親方の噛み合わぬ会話のギャップがなんともおかしい、こちらは声をたてて笑える落語となっています。
 特に目の前の男がまさか自分の妻と密通している人物だと思いもよらず、さんざん寝取られた架空の男を馬鹿にする親方の口振りは、わざとらしさを感じさせないぎりぎりのところでとどまっていて、「もしかしたら勘づくんじゃないか?」という緊張感が根底にうっすらと流れているあたり聴きどころです。

 辛辣かつ歯に衣着せぬ物言いでお茶の間を沸かせている笑点の歌丸師匠とはまた異なる、情の語り口をたっぷり聴かせてくれる桂歌丸師匠の噺は、これまで落語を耳にしたことのない人にもなじみがよく、これからどれかひとつと考えている方にもお勧めしやすいものとなっております。

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テーマ : 落語 - ジャンル : お笑い

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