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上田としこ『フイチンさん』復刻愛蔵版上巻

 何気なく読んでいた新聞の日曜版書評欄で見つけた一冊の漫画本に目を引かれました。
 上田としこ『フイチンさん』と書かれたそれは、昭和三十年代に少女漫画雑誌で連載された作品で、戦前の旧満州を舞台に大家の門衛の娘フイチンがお屋敷のお坊ちゃんの子守りに抜擢されたことからはじまる物語をコミカルに描いたものとのことでした。
 書評を読んだ最初の感想は、
「へー、『つる姫じゃーっ!』の作者さん、こういう漫画も描いてたのか」
 と、おかっぱでてっぺんはげの女の子が馬賊姿で荒原をドタドタ疾走しているイメージが頭に浮かびました。
 以前から満州に興味を持っておりまして、それも手伝って、ネット検索をしてみますと、ところが出てきたのはもっとデザイン的なスマートな絵でした。
 このあたりで、さすがに鈍い私も気がつきました。
 今回話題になっていた『フイチンさん』の作者は上田としこで、『つる姫じゃーっ!』は土田よしこ……
 いやはやうろ覚えの知ったかぶりくらい始末におえないものはありませんです。

Fuichin.jpg というわけで買ってまいりました小学館版『フイチンさん』。
 復刻愛蔵版ということで表紙の淡い色ののりと、カケアミのような凹凸のある用紙の質感がうれしい表紙が、とてもレトロな感じをかもし出しています。
 懐古趣味というのもあるかもしれませんが、昔のものを出すのに、その当時の雰囲気を大事にしようという意思は、これは出版社のものとしては評価すべき点だと思います。
 中身は書評で読んだ通り、おてんば少女のフイチンさんがまきおこすてんやわんやの大騒動が楽しい娯楽作品で、一度開くと止まらずに頭から終わりまで一気に読み通してしまいました。
 主人公のフイチンさんがとてもいいキャラクターをしているのですね。
 竹を割ったような性格で、一本気で曲がったことが大嫌い、考えるよりも先に行動するタイプで、まわりをぐいぐい引っ張っていくパワーを持っている。
 といって万能ではなく、運動神経はいいけれども人並みよりやや秀でているというくらいで、初めてのスケートに悪戦苦闘もするし、体力も普通の少女と変わらない、門衛の娘だから学校に通っておらず文字は読めないし、なによりかなりのおっちょこちょい。
 長短あわせもつからこそ憎めなくて、読み進めるうちにどんどん愛嬌を増してかわいくうつるようになってくるのです。
 このフイチンさんが長い手足を活かして、画面をところせましと動きまわるから、見ていて飽きることがありません。

 特におもしろいなと思ったのが、主人公のフイチンさんを中国人としているところで、旧満州という土地は、人種のるつぼではありましたが、もちろん大部分は元から住むフイチンさんのような人で占められていました。
 けれども、これまで語られてきた満州の姿は、少数である日本人の目を通してというのがほとんどで、他民族の視点が現れることが薄かったように思えます。
 ところが『フイチンさん』では戦後わずか十年ほどしか経っていない時期にこうした物語を紡ぎだしていたことが驚きであり、だからこそ今読んでも新鮮な感動を味わえるのでしょう。
 個人的には窮乏するロシア人の母娘との交情を描いたエピソードが好きで、決して安穏とできない状況にありながらも、笑ってほがらかに暮らしましょうと明るくいえるやさしさと強さにじんとさせられました。
 多くの人種を扱いながらも政治的な色合いは薄く(というよりは、昭和三十年代の少女漫画にそうしたにおいを積極的に探そうというのはまちがいでしょう)、だからこそ日本人も多くの人種のひとつとして表現するところに、おおらかな大陸的な香りが心地よく鼻腔をくすぐってきて、胸がすっとすく思いがします。

 なんといいますか、執筆された時代を考えますと余計に、とても漫画らしい漫画を読んだという満足感がわきあがってきます。
 上下分冊で下巻は今月末に発刊されるということですので、この後の完結までを読むのが今から楽しみです。

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テーマ : ブックレビュー - ジャンル : 小説・文学

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