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百年の歩幅

 かつて全世界をスペイン風邪と名付けられた病魔が席巻したことがあります。
 全世界などと書きますと、いかにも大袈裟で、かつ言葉が軽々しく受け取られてしまうかもしれませんが、一説によれば十億人が罹患し、少なくとも二千万人が死亡したと言えば、決して言葉のあやでも比喩でもないことが御理解いただけるかと思います。
 これほどまでの惨状を引き起こした流行が、しかも有史以前の未開時代どころか、近代をも経過した二十世紀、一九一八年から翌一九年にかけて起こった、つい百年にも満たない以前に起こったことなのです。
 スペイン風邪は、名前とは異なり、風邪ではなくインフルエンザであり、当時スペインでの流行が大きく取り沙汰されただけで発生が同地であったわけでもありません。
 一九一八年半ば頃よりヨーロッパで流行しはじめたこのインフルエンザは、まず人類における最初の世界大戦の主戦場で目立って猛威をふるいはじめます。
 例えば戦争末期に参戦を表明したアメリカ軍の投入した兵数二〇八万人は、戦線において五万人の犠牲者を出していますが、そのうちスペインインフルエンザによる犠牲者はおよそ八割を占めたとされます。
 それどころか、五年におよぶ第一次世界大戦の全戦死者六百五十万人の数倍にあたる人間が、二年間のこのインフルエンザの流行によって命を落としているのです。
 流行はもちろん日本にも飛び火しています。
 大正七(一九一八)年秋から大正十年春まで、収束と再流行をくり返し、最終的な犠牲者は三十八万人、インフルエンザ発症による気管等の他臓器不全での死因を含めれば五十万人にものぼるといわれています。
 一九一八年から一九二〇年にかけてといえば、最近なにかと話題にのぼることの多い、日本の軍艦でいいますと、金剛型の戦艦は霧島まですべて就役が完了していますし、長門も既に進水が行われています。
 その後の太平洋戦争で使用される軍艦が整備されはじめていた時期であり、決して歴史から遠く隔たった時代の話ではありません。

 医学の進歩は着実にこうした凶悪な感染症被害を抑制しつつあります。
 けれども、その歩みは決して大きく過去を引き離したものではなく、それどころか振り返ってみれば、ほんのすぐ後ろに凄惨な犠牲者の山が築かれているのです。
 それを思いますと、現在起こっている新たな犠牲もまた、身近な看過しがたいものに思えてきます。

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テーマ : 雑記 - ジャンル : 日記

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