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鏡の国のマーベルヒーローズ

 アメコミといいますと、全身タイツ姿のヒーロー(ヒロイン)が強大な力で悪者をやっつけて一件落着という風なものというイメージが、日本ではだいたい七〇年代くらいから一般化されていたように思います。
 けれども、実際に現在邦訳されているものを読んでみますと、例えば映画にもなった『ウォッチメン』だとか、または各会社を代表するヒーローであるバットマンやスパイダーマンでも、およそ能天気に悪者退治をしているとはいいがたい、だれが悪人とも決めづらく、入り組んで一筋縄ではないかない話が並んでいます。
 けれども、そうしたものを続けて読んでおりますと段々とくたびれてまいりまして、元来は批判の対象でもあった、そうしたわかりやすい話というのも読みたくなってくるから、まったく読者というのは勝手なもんです。
IW_cover.jpg そんなわけで、ということもなく、まったくたまたまなのですが、最近読んでいたマーベルの『IDENTITY WARS』は、どちらかといえば、わかりやすいヒーローの活躍を描いたコミックで、ちんぷんかんぷんの英語も、なんとかコマの運びで読めた気にさせてくれる、マンガとしての楽しさの詰まった一冊でした。

 この『IDENTITY WARS』は概ねスパイダーマンの視点で物語が進んでいくのですが、他にもデッドプールとハルクをサブ主人公に据えたクロスオーバーのミニシリーズで、2011年に刊行された『The Amazing Spider-Man Annual #38』『Deadpool Annual #1』『The Incredible Hulk Annual #1』の三話から構成されています。
 アニュアルannualはアメコミの用語で年一回刊行のシリーズを指しますが、出たり出なかったりするようで、基本的には増刊号くらいに見られているみたいです。
 掲載された2011年といいますと、現在ShoProやヴィレッジブックスから邦訳の刊行が進んでいる『シークレットインベイジョン』(2008年)以後の展開もひと通り落ち着いた頃で、内戦やら侵略のごたごたにも後始末がついた時期にあたります。
 各キャラクターに暗い陰があまり落ちていないのも、そういうタイミングだったからかもしれません。

 話の主役スパイダーマンことピーター・パーカーは、ここではフリーランスのカメラマンではなく、研究所勤めの若き研究者になっています。
「J・ジョナ・ジェイムソンの下で何年もこき使われてきたけど、ここで研究に打ち込めるっていう天職についにありついた」
 などと普段以上に口もまわって同僚からたしなめられるほどに浮かれています。
 スパイダーマンをご存知の方はお察しの通り、ピーター・パーカーに訪れた安息は長続きしません。
 今回それを打ち壊してくれるのはデッドプールと、その雇い主である強盗団です。彼らはこの研究所でひそかに開発されている次元転移装置を使い、一攫千金を試みようとしているのでした。
 この転移装置は人間の脳波に感応してゲートを開き、パラレルワールドへと移動することを可能とするのですが、まだプロトタイプということもあって、フィードバックで被験者の脳に致命的な損傷を与えてしまうという代物です。
 そこで目をつけられたのが、頭を吹き飛ばされてすら再生するヒーリングファクターを持つデッドプールでした。(ただし本人には承諾をとらずに)
 まんまと隙を突かれたデッドプールは装置の起動により昏倒、その甲斐もあってゲートを開く準備は整おうとしていたのですが、ここで不審者を見かけて様子をうかがっていた一人の研究者が逆にとらえられてしまいます。
 それがピーターと同じく雇われていたブルース・バナーでした。
 そう、極度のストレスにさらされることで、ハルクに変貌を遂げるあのブルース・バナーです。
 あとは御想像にたがいません。目撃者は消せという短絡的な強盗団の発砲でハルクが覚醒、そして騒ぎを感知したスパイダーマンも駆けつけ、研究施設は三つ巴の大乱戦。やがて、強盗達は倒したものの、お定まりの装置の暴走で、めでたく(?)ハルクとスパイダーマン、ついでにまだのびたままのデッドプールはパラレルワールドへ強制的に転移させられます。

 たどりついた先は一見それまでと同じ研究所のようでした。
IW01.jpg
 ただし、床に転がっている緑色のデッドプールとコスチューム違いのスパイダーマンとを除いて。
 このパラレルワールドでも同じように次元転移装置が狙われたのでした。ただし、ここにはハルクはおらず、スパイダーマンは一人で強盗を撃退したものの負傷してしまったというズレがありました。
 別の世界とはいえ、自分自身が倒れているのを見過ごすわけにはいかず、ブルースやデッドプールはひとまずおいて、ピーターはいわれるがままに手当てを行うための施設へ運びこみます。
 そこで元の世界のピーターは、このパラレルワールドではスパイダーマン(こちらではアメイジング・スパイダー)が唯一のヒーローであり、一人ですべての犯罪に立ち向かい、そして立派に解決しているのだと聞かされます。
 実際、傷の癒えないアメイジング・スパイダーにかわって、彼のコスチュームに身をまとい、市街で暴れるライノと対峙した際、すぐに抵抗をあきらめたライノは、耳を疑うようなことを口にします。
IW02.jpg
「お前はサノスを倒し、一対一でギャラクタスさえ撃退したそうじゃないか。そんなやつにかなうもんか」
 スパイダーマンでなくとも「マジで?」といいたくなるってもんです。
 この世界のピーターは、表では自立した研究所を構える実業家として資産を有し、ベンおじさんは亡くなっておらず、グウェン・ステーシーとメリージェーンというガールフレンドもいるという、ヒーローとしても個人としても充実した生活を送っている、まさに理想の世界に生きているといえるのでした。
 けれども、その理想に次第にほころびが現れてきます。
 そもそもいくらパラレルワールドだからといって、こちらのピーター・パーカーが一般のヒーローの枠組みをはるかに超えた力を持っているのは何故なのか。
 それが解明される時、ここが理想の世界でもなんでもないことが判明していきます。
 緑色のデッドプールと意気投合した赤いおなじみのデッドプールも、またハルクに変身することのなくなったブルース・バナーもそれぞれにこの世界での現実を目の当たりにし、やがて元の世界を強く求めるようになっていきます。

 アイデンティティの戦争とはよく名づけたもので、自分と同一人物と対峙することで自己を勝ち取っていく様を、三者三様の闘争形式で描いていて、それでいて結末は爽快で、元の世界に戻ってきた三人が居並ぶラストにはつい同じようにニヤリとさせられてしまいます。

 それにしても、もとはデッドプールを期待して読みはじめたのですが、ハルクにぶっ飛ばされたり強盗団に裏をかかれたりしているのを見ておりますと、このキャラは特に大きな話だと前に出張るよりは後ろでちょっかいだしている方が光りますねえ。

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