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ユークリッドの楽園

 円、三角形、四角形、扇形、楕円……。
 数々のフリーハンドで描かれた幾何学模様の組み合わせ。
 白い紙にペンで、時には鉛筆やクレヨンでもって描かれた絵。しかし、果たしてこれが絵だろうか。
 見ようによってはペンの試し書きの集まりのようにも映る。
 けれども、何十枚にも及ぶ線画のそれぞれに題名がつけられていたとしたらばどうだろう。
「ひざまずく天使」「おませな天使」「幼稚園の天使」……。
 なるほど、いわれてみれば、円の中には目や鼻、口と思しき円や弧が入れ込まれていることが多い。だとすれば、これが顔なのだろう。左右には翼と思しき扇形や三角形も見える。
 天使の表象としては、必要な条件は満たしているともとれる。
 いや、それどころか、いったんそのつけられた画題を目にするや否や、ただの殴り書きとしか思えなかった数々の線画が、絵として豊かに語りかけてくる。

 パウル・クレーの天使の絵と初めて出会ったのは、岩波文庫に収録されたヴァルター・ベンヤミンの二冊の編纂本の表紙絵としてでした。
 岩波文庫特有の、梗概が飾る表紙のかたわらに申し訳程度添えられた数センチ四方のスペース。そこに収まった線画のイラストを見るなり、ドキリと胸を突かれた覚えがあります。
 巧みとはいいがたい、むしろ稚拙な、ふらふらとした描線の集積体としか形容のしようがない絵が、それでも目を引いてやまなかったのです。
 少なくとも、難解なベンヤミンの著作に、哲学など一言隻語も解さない私が、何度となく挑みかけるきっかけを与えてくれるくらいには、「未熟な天使」「希望に満ちた天使」という二枚の絵は力を持っていました。
 もっとも、それから長い間、クレーの天使については、この二枚で満足してしまっていたのですが。
 それというのも、やはりといいますか、ベンヤミンの前にもろくも破れ去った記憶が、新たに一歩踏み出すきっかけをそいでいたように思えます。
 ただ、時の経過というのはありがたいもので、苦い思い出や経験を薄めてくれ、逆に心動かされた記憶を色鮮やかに飾ってくれます。
 昨年の暮れに、クレーの天使についてふいに調べたくなったのも、そうした時間による記憶の変化によるものだったのかもしれません。
 おかげで、クレーの描いた天使の絵がかなりの数にのぼること、そのうちの多くが谷川俊太郎との詩画集として刊行されていることを知りました。
 日本ではスヌーピーとして知られる、チャールズ・M・シュルツの『ピーナッツ』の谷川俊太郎による訳文は、私も愛してやみません。
 時代を越えた二人の共作ということで、早速その『クレーの天使』を入手しました。

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男爵事始 はじめてのデューク・エリントン

 すごい黒さだ。
 一曲目の「ブルース・フォー・ニューオリンズ Blues for New Orleans」の冒頭を飾るオルガンの粘つくうねりにさらされて、頭をよぎったのはそんな感想でした。
 頓珍漢なことを、と笑われるかもしれませんが、ファンキーという単語がネオンのようにともり消えなくもなりました。
 タキシード姿のかしこまった音楽を予想していただけに、この不意打ちは完全に出会い頭をとらえ、私は一発でノックアウトされてしまったのです。
 おかげで、『ニューオリンズ組曲 New Orleans Suite』一枚を通して聴いた最初の感想は、「えらいものに出会ってしまった」という、なんとも茫として当を得ないこと著しいものになってしまいました。
 そして、その脳震とう状態は、おそらく今もって続いています。

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